■話すように書いてみると:ドラッカー「顧客の創造」の経済学的な意義

1 1954年の『現代の経営』

ドラッカーが「顧客の創造」を言い出したのは、『現代の経営』においてでした。この本は1954年に出版されています。まだその当時のことですから、ドラッカーは現実のビジネスを観察して、それを基礎にして、この本を書いたわけではないですね。

具体的な事例は、『会社の概念』という本を書いているぐらいですから、GMとかGEとか、そういう大きな会社のことは知っていたはずです。しかし、そこで実践された話が明確化されてない段階で、実態をヒントにして概念を生み出した感じでしょう。

では、どうやって『現代の経営』というマネジメントの体系ができたのか。それは明確ではありませんが、他の学問体系から作られたということになると思います。他の学問を勉強して、体系というものを理解したのでしょう。そんな気がします。

 

2 金森久雄の評価

「顧客の創造」というのは、どういう概念か。どんな意義があるか。その辺を、一番明確に語ったのは、金森久雄の『大経済学者に学べ』だと思うのです。この本で、金森はドラッカーを経済学者と扱っています。経営学者の面があることを分かっていながらです。

金森はドラッカーの意図を読み取って、これは経済理論がベースにあると見たのでしょう。だからこそ、「顧客の創造」を大切なポイントとして取り上げています。ドラッカーは、市場を作るのは事業家であると言います。それはどんな活動なのでしょうか。

企業がマーケティングやイノベーションを行って、その結果として顧客の欲求を有効需要に変えるということです。顧客の欲求が有効需要に代わることによって、はじめて顧客と市場が生まれるということになります。企業家・事業家が顧客を作るのです。

はっきりしたニーズがあるものに対応した供給だけでは、注文生産方式と同じです。それでは需要が限られます。そうではなくて、潜在的な欲求を企業側が見出して、それを提供するのです。実際に物やサービスを提供すると、欲しいという人が出てきます。

 

3 ミクロ的な基礎

与えられた需要の下で、利益を最大化するのが企業経営の目的だという考えがありましたが、どうも現実は違うようです。利益を上げている企業は、潜在的なニーズまで取り込んでいます。与えられた需要だけでなくて、それ以外のお客さんまで獲得しているのです。

もはや現在では、こうした考えは当然かもしれません。しかしこういう前提で需要と供給を考えてみると、それまでの経済学のモデルには、不足するところがあったのではないかということになります。だから金森久雄は、ドラッカーを経済学者とみなしました。

ケインズ経済学では、投資や消費などのマクロ的な動きから、経済の発展や変動を分析し、理論化しましたが、ドラッカーの場合、実際に投資を行う個々の企業を基礎に置いているのです。ミクロ的な基礎を作り上げたと、金森は評価しています。

企業のマインドがどうなるかで、経済が大きく変わってくると言えば、当たり前だということになりますが、ここにドラッカーの貢献があったということです。企業の機能を明確にした結果、実際の経済政策を検討するときにも、企業が基礎項目になっています。

 

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